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自治体の取り組み事例

空き家対策は「行政だけで抱えない」
―― 神戸市に学ぶ、民間を“仲間”にして動かす空き家再生の突破口

自治体における空き家対策の現場では、管理不全となった建物への対応に追われ、空き家になる前の予防や、活用にまで手が回らないという声が少なくありません。所有者に早く動いてほしくても、行政から接点を持つことは難しく、新しい施策を始めようにも、人員や予算には限りがあります。

そんな中、神戸市では、行政だけで問題を抱え込まず、不動産、建築、金融など地域のプレイヤーを巻き込みながら、発生抑制、活用、解体後の土地利用まで幅広い施策を展開しています。特徴的なのは、最初から完成された制度をつくるのではなく、まず試し、実績をつくり、そこから次の施策や庁内理解につなげていく姿勢です。

今回は、そんな神戸市の空き家対策を長きにわたり率い、強化されてこられた、神戸市 建築住宅局 政策課 空家空地活用担当 課長 吉山貴史様に、制度の表側だけでは見えにくい試行錯誤や、施策を前に進めるための考え方を伺いました。

取材の様子

取材先

神戸市 建築住宅局 政策課
空家空地活用担当 課長

吉山 貴史 氏

発生抑制に立ちはだかる壁の越え方

01空き家になる前に、思い出してもらう。

Q.

自治体の現場として、「空き家になる前に働きかけたい」と考えても、居住中の所有者や相続前の家族は行政との接点がほとんどありません。担当者からは特に、アプローチのタイミングが難しいという悩みを聞くことがありますが、神戸市ではどのように対応しているのでしょうか。

おっしゃる通り、所有者やご家族によって空き家について真剣に考えるタイミングは本当にバラバラで、行政が通り一遍の啓発を行ってもなかなか届きません。そこで神戸市では、特定のタイミングだけを狙うのではなく、まず広く情報に触れてもらい、必要になった時に思い出してもらうことを重視しています。

具体的な手法としては、固定資産税の納税通知書への相談窓口案内の同封や、市役所内の安全対策課と連携したリスク周知、そして活用事例などの空き家情報を一元化したウェブサイト「Good Morning空き家!」の整備などが挙げられます。

Good Morning空き家! 家族会議特集ページ
▲ ウェブサイト「Good Morning空き家!」の家族会議特集ページ

なかでも大きな手応えを感じているのが、お盆とお正月の直前をターゲットにしたインターネット広告の配信です。家族が集まりやすい時期を狙い、「家族で家のことを話してみませんか?」というトーンのメッセージを配信しました。広告をフックにウェブサイトへのアクセスは大幅に増加し、「具体的に何を話し合えばいいか」というコラムを提示することで、所有者の自発的なアクションを促す強力な呼び水となっています。

POINT
  • 固定資産税の納税通知書に相談窓口案内を同封
  • 市役所内の安全対策課と連携したリスク周知
  • 空き家情報を一元化したウェブサイトの整備
  • お盆・正月前にインターネット広告を配信

02怖さだけで動かさず、「いまなら選択肢がある」と伝える。

Q.

所有者に情報を届けても、「まだ困っていないから」「そのうち考える」と先延ばしにされるケースは少なくありません。「自分ごと」として考えてもらうために、どのような工夫をしていますか?

先延ばしの背景には、単に危機感がないというだけでなく、「何かしなければとは思っているけれど、何をすればよいのか分からない」というご不安があると考えています。ですから、「放置すると危険です」と伝えるだけではなく、空き家になった時のリスクと、今ならできることの両方を示すようにしています。

例えば、管理不全空家や特定空家の勧告を受けてしまうと、固定資産税の住宅用地特例が外れる可能性があることや、相続登記が義務化されたことで、未登記の場合は過料が科されることなど、一定の緊張感を持ってもらう情報も発信しています。

その一方で、私たちが大切にしているのが、「建物にまだ資産価値があるうちに、次の手を打ちませんか?」という前向きな提案です。状態が悪化してからでは、売却や活用の選択肢が狭まり、最終的には解体費用など所有者の持ち出しが増えてしまうこともあります。怖さだけで動かすのではなく、「今なら選択肢がある」と伝えることで、行動へのハードルを下げていくことが重要だと考えています。

POINT建物にまだ資産価値があるうちに、次の手を提案する

03制度を使う人を、企画段階から巻き込む。

Q.

多くの自治体からは、近隣住民からの苦情や危険空き家への対応に追われ、発生抑制や活用推進といった攻めの制度設計に割く人員も予算も全く足りない、という悩みが聞こえてきます。神戸市では、現場のマンパワーや予算の不足をどのように乗り越えたのでしょうか?

人はもっと欲しいです(笑)。空き家対策への期待は高いですが、決して余裕があるわけではありません。特に適正管理は業務内容が明確なので人員要求もしやすいのですが、活用は成果が見えにくく、「忙しいから人を増やしてほしい」と言っても理解を得にくいところがあります。

だからこそ、行政だけで全部やろうとすることは諦めました。そこで、建築家や不動産事業者といった地域で活動する人たちに制度を使ってもらう形へ発想を変えました。困っている所有者が行政窓口に来るのを待つのではなく、「この制度を使って所有者に提案してみませんか?」と民間側から働きかけてもらう“民間主導の補助金制度”を構築し、プロの力を借りて実務を前へと進めています。

同時に、できた事例は積極的に“見える化”しました。ビフォーアフターや関係者インタビューをホームページやメディアを通じて発信し、見学やまち歩きにつなげる。具体的な成果を一つずつ積み上げて見せることが、庁内の理解や次の予算を得るのに効果的でした。

制度づくりでも失敗はありました。例えば、空き家改修向けのローン利子補給制度を2年間実施したものの、申請はゼロ。行政側の想定と実際の金融商品の金利にずれがあったことが原因でした。この経験からも、「制度をつくってから民間に使ってもらう」のではなく、企画段階から現場を知る事業者と一緒に考えることの重要性を学びました。

POINT民間主導の取り組みを次の施策につなげる
  1. 01民間から提案制度を活用
  2. 02実務を前へ所有者へ働きかけ
  3. 03事例を見える化成果を発信
  4. 04庁内理解へ次の予算へ

「制度をつくってから民間に使ってもらう」のではなく、企画段階から現場を知る事業者と一緒に考える。

点から面へ。解体跡地も生かす、攻めの活用術

04一つの空き家だけでなく、地域全体の動きをつくる。

Q.

空き家を1棟ずつ再生しても、周囲に空き家が増え続ければ地域全体の課題は解決しません。神戸市が始めた「面」でのアプローチとは、どのようなものなのでしょうか。

まさにその“点から面へ”の転換を目指し、神戸市では2025年7月から、面的アプローチである「坂のまちエリアリノベーション」をスタートさせました。これは、重点エリアを定め、エリア内の空き家改修や活用を一つずつ点で行うのではなく、横に連携させていく取り組みです。

この仕組みのポイントは、坂の多い一部指定エリアにおける新たな魅力づくりと交流機会の創出を目指して、補助金の要件に、単なる建物の改修だけでなく「地域課題の解決や、横の連携・つながりを構築すること」を必須要件として組み込んだ点にあります。

例えば、空き家を改修した事業者には「カフェを営みつつ、月1回は地域のお年寄りが集まるお茶の間にする」「子ども食堂や本の読み聞かせイベントを開催する」といった、事業としてきちんと収益を得ながら、地域にも開かれた場所をつくってもらっています。

一つ魅力的な場所ができると、その周辺で「自分もやってみよう!」というドミノ倒しのような動きが起き、結果として補助金に依存しすぎず自走する“地域の仲間”が増えていくという確かな手応えを得ています。

もちろん、庁内では「本当に効果があるのか」という声もありました。そこで最初から恒久制度にせず、「まず3年間、実験としてやらせてほしい」と始めました。完成された制度を最初から目指すのではなく、小さく試し、外からの評価や実績を集め、次につなげていく。その進め方も一つのポイントだと思います。

POINT完成された制度を最初から目指すのではなく、小さく試し、外からの評価や実績を集め、次につなげていく。

05出口から逆算して、土地の次を考える。

Q.

解体が必要な空き家の場合、「壊して終わり」にされがちな中で、神戸市では、解体後の土地を再び地域の資産として循環させるために、どのような仕組みをつくっていますか?

神戸には坂道や細い路地が多く、接道条件が厳しい敷地や、単独では市場で扱いにくい小さな土地があります。建物を解体できても、その土地が使われないまま残ってしまえば、空き家を一つ減らしただけで、地域の課題そのものは残ってしまいます。

小さな跡地を隣の所有者に取得してもらい、隣接する土地と一体で使えるようにする「隣地統合」を進めています。手続き等にかかる費用について、売主と買主それぞれに最大50万円を補助する制度です。

これは行政内部から生まれたアイデアではなく、不動産事業者から「こういう土地は隣の人に買ってもらうのが一番現実的だ」という話を聞いたことがきっかけでした。

小さな敷地でも、隣地と一体化すれば使い道が広がり、再び不動産の流通に乗る可能性があります。また、無接道敷地についても、安全性を確保できる場合には再建築につながるよう、基準の運用を工夫しています。空き家対策を建物への対処だけで考えず、その土地が次にどう使われるかまでを見る。出口から逆算して制度を考えることが重要だと感じています。

POINT出口から逆算して制度を考えることが重要

06空き家対策と、循環型社会をつなぐ。

Q.

古い家を解体すると、まだ使える柱や建具まで廃棄されてしまいます。神戸市では空き家対策と循環型社会を掛け合わせた「古材ストックヤード」という珍しい取り組みも始めています。どのような経緯で生まれたのでしょうか?

きっかけは、地域で空き家再生に取り組む民間事業者からの相談でした。「解体される家には素晴らしい古材や建具がある。救い出したいけれど、保管する場所がない」と切実に言われました。

そこで庁内を探したところ、環境局のごみの収集施設に活用できるスペースがあり、市が無償の展示・保管スペース(ストックヤード)として貸し出すサポートを実施しました。ポイントは、市が古材の売買まで担うわけではないことです。金銭のやり取りは施設外で民間同士に任せ、市は「場所を用意する」「古材の価値を市民に知ってもらう」という役目に特化しています。

古材ストックヤード ビバークの様子
▲ 古材ストックヤード「ビバーク」の様子

2026年1月から6月まで試行し、7月からは3年間の実験として本格的にスタートしました。ワークショップやトークイベントなども行いながら、最終的には民間だけで自走できる仕組みを目指しています。思い出を紡ぎながら空き家を減らす、循環型社会の新たなモデルケースとして育てていきたいと考えています。

このように、行政が新しい事象をゼロから抱え込むのではなく、「民間が困っていることに行政の資源を足すことで、仕組みが回らないか」と考える。空き家対策と循環構造型社会という別々の政策課題をつなげられたのも、外部から持ち込まれた相談を起点にしたからこそだと思います。

POINT「民間が困っていることに行政の資源を足すことで、仕組が回らないか」と考える。

07全国の自治体担当者へ向けたメッセージ

Q.

空き家対策には唯一の正解がなく、制度や施策に頭を抱えている自治体も少なくありません。全国の実務担当者に向けて、大切にすべき姿勢やアドバイスをお願いします。

一番お伝えしたいのは、「とにかく行政の殻を破って外に出て、色々な人と喋ってください」ということです。自分一人でパソコンの前で悩んでいても、正解のない空き家対策の答えは見つかりません。不動産、建築、金融、地域活動など、業種を問わず面白い活動をしている事業者とざっくばらんに喋ることで、「そんな考え方があるのか!」という気づきやヒントが必ず出てきます。

同時に、自分たちの首長や組織が今どこに関心を持っているのかを常に敏感に察知しておくことも大切です。そこに空き家対策をどう結び付ければ応援してもらえるのかのロジックを考える。必要なら他都市の事例を一緒に見に行き、巻き込んでいく。それも担当者の仕事だと思っています。

民間との連携も、「地域を良くしたい!」という思いを共有できる事業者であれば、行政だけで抱え込まず、信頼して任せるところは任せる。空き家対策では、制度そのもの以上に「仲間をどう増やすか」が大事なのかもしれません。色々な人と話し、まずやってみて、失敗したら修正する。その泥臭い対話とネットワークづくりこそが、結果として予算や人員の壁を打ち破り、地域を大きく動かす推進力になると信じています。

おわりに:明日から試せる、空き家対策のファーストステップ

神戸市の取り組みから見えてくるのは、特別に潤沢な人員や予算があるから新しい施策ができている、という単純な構図ではありません。

所有者との接点がなければ、固定資産税通知やWeb広告などで接点をつくる。行政だけで所有者を動かせなければ、すでに地域で動いている民間のプレイヤーに力を借りる。首長へ成果が説明しづらければ、まず小さな事例をつくり、見える形にして庁内へ返す。制度が使われなければ、廃止して次の方法を試す。そして、1戸の空き家だけを見るのではなく、その先にある地域、さらには古材まで視野を広げます。

POINT民間プレイヤー、他自治体の実務者との「雑談(対話)」を始める

まずは、地域の不動産、建築、金融、地域活動のプレイヤー、あるいは隣接する自治体の空き家担当者と気軽に喋る機会をつくりましょう。行政が持っていない生の情報や解決のヒントに出会うかもしれません。

POINT「小さな成功事例」の見える化に集中する

最初から大きな制度をつくるのではなく、まずは1件、地域連携を意識した分かりやすい空き家活用の成功事例をつくりましょう。それを動画やコラム、メディア露出などで“見える化”してアピールすることが、その後の予算と人員確保の武器になります。

神戸市の実践が示しているのは、完成された正解を探すより、地域の中にいる人たちと対話しながら、小さく試して次につなげることの大切さです。空き家対策を行政だけの仕事にしない。その一歩が、発生抑制から活用、地域再生までを動かす出発点になるのではないでしょうか。

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